魚徳 代表 三留一則・恵子さん

——お店ができたのはいつでしょうか

一則さん: うちが出来たのは戦前。父親は広尾の魚屋さんに奉公に出ていて、そこで世田谷の新町にあった神田屋さん(魚屋)と一緒になったみたい。それで桜新町で魚屋さんとして開業しました。当時から仕入れには力を入れていて少し高くてもいいお魚をということで深沢のお屋敷まで天秤棒を担いて配達をしていたんだって。
でも、父親は私が4歳の頃に亡くなって、それからは母親が毎朝トラックで魚河岸(うおがし)に行って仕入れ、一番上の姉さん、わかいし(若い衆)さんとでお店を回していました。そんなわけだけからお店を継ごうとかではなくて兎に角やるしかなかった。
商店街では萬豊さん(酒屋)とかフジヤさん(パン屋)や菅沼つとむさん(世田谷区議会議員)のお父さんたちが一緒になって白波五人衆っていう仮装行列をやって売り出しの宣伝とかをやっていたんです。うちは弁天小僧だったんだけどその後ろをついて歩いていたみたい。

——桜新町の雰囲気はどのようでしたか

一則さん:  玉電(玉川電気鉄道)も昔は砂利電っていって砂利を運んでいたし、車だって持っている人はあまりいなかった、246(国道246号線)もまだない時代。それこそ戦後の何もない時代を経験しているから他地域との違いもあまり感じなかった。でも、桜新町にマクドナルドとケンタッキーができたときは驚いたよ。まさかできるとは思っていなかったから。それくらいから徐々にチェーン店も増えてきた。

——恵子さんは商店街の女性部長ということを伺いましたが、女性部について教えてください。

恵子さん: 最初は婦人部って言ったんだけど女性目線で環境のことや街のことに取り組めないかということで立ち上がりました。最初の頃は、さくらまつりの時に空き缶回収の企画をしたり、お餅を作ったりもしました。今では当たり前になっているけど2002年に商店街でエコバックを作ったのも女性部主導で行ったんですよ。旦那の姪がデザインを考えてくれて今でもそのバッグを使っている人がいると嬉しくなるんです。

——商店街の企画はどのように決まるんですか。反対されたりはありませんでしたか?

恵子さん:  エコバックの時は反対などありませんでしたよ。
毎月商店街の理事会があるんですけど担当になるとそこで企画書を提出しなくてはいけないんです。この頃は盆踊りに金魚すくいにと毎月の様にイベントがあり、女性部は朝市を担当していたのですが、理事会ではいつもドキドキでした。良くも悪くも一枚の企画書に対してたくさんの意見が出るんですから。大変でしたけどとても活気があって楽しかったです。

——思い出に残っている企画はありますか

恵子さん:  それは「ねぶたまつり」。桜新町商店街が50周年ということで当たり前の式典などの行事ではなく、違うことしようってことで始まったの。それで「ねぶた」を桜新町に、ということになって、都内でねぶたまつりを開催しているところがあるということで視察に行ってとてもキレイだったんだけど、設置型でその場で回転をするだけだったの。それで、視察の後に「これじゃないんだよ!青森と同じことをしたいんだよ!」って声が上がったところから桜新町も青森のねぶたまつりのように道路を封鎖してまちを練り歩くという形が出来上がったんです。その結果、駅前通りだけでなく商店街すべてのお店が繁盛して、一緒に参加もできて楽しめるものになりました。それを見たときにこんないい祭りはないなぁと思いましたし、今でも思っています。
もちろん、お祭り自体もすごいけど「これじゃないんだよ!」ってところから実際に実現ができるというところが桜新町のすごいところ。他のまちをただ真似るんじゃなくて独自性があって常に新しいことをやってく、そんな機運がとても高まっていた時期で私は好きだし、しっかりと記憶に残っています。

——まだまだ、ありそうですね

恵子さん:  そうなの。他には味覚祭りって知っている?今のチェリーカード(桜新町商店街のポイントカード)は貯まったら現金に交換と年末の福引きができるのだけど、昔は商品とも交換ができたの。その中の企画で味覚祭りというのがあって、毛蟹、伊勢海老、お酒なんかと交換ができて、うちの常連さんなんか味覚祭りでワインと毛蟹、貯めたチェリーカードで箱ウニを手に入れてウチのお店で食べていたら別のお客さんが「芸能人ですか?」って驚いていたくらい。でもさすがに大盤振る舞いしすぎだったみたいで商店街の財政的にこんな企画はできなくなってしまったけどね(笑)。

——10年後の桜新町は、その頃のような活気があふれたまちになるでしょうか

恵子さん:  この先も形は変わるかもしれないけど、ずっと頑張っていける、将来性のある街だと思うよ。だってその頃の息子さん世代が今も頑張っているし、桜新町の良さは受け継がれている。自分のお店をやりながら「どうなればまちが良くなるか」「どうやれば商店街会員さんが喜ぶのか」ってことを考えているんだよ。素晴らしいよね。
自分たちのお店のことだけを考えていればいいじゃないかって思ってしまえばそれまでだけど、お給料とかは関係なく、生活をしている人のことやまちのことを常に考えて動こうしている人たちがいる。その気持ちがあれば大丈夫。なので、まったく悲観的な思いはありません。むしろ10年後がどんな桜新町になっているのか楽しみ。

——次は誰にお話を聞きましょうか

恵子さん:  色々なお店に回ってほしいし、もちろん商店街の理事さん以外も。でも次はお隣の山沢さんにお願いしようかな。いろいろとまちのことを話していた同士だから。

【店舗情報】 魚徳
【 住 所 】 東京都世田谷区桜新町1丁目14-19
【営業時間】 定休日 日曜日
       12:00~14:00 18:00~22:00
【電話番号】 03-3429-6724

聞き手 吉池拓磨(桜新町商店街振興組合スタッフ)
インタビュー日:2021年7月28日

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